プロのエンジニア、渡辺省二郎氏に聞いてみた!一問一答インタビュー

約40年ほどの長いキャリアを持ち、現在も第一線でご活躍されているエンジニア、渡辺省二郎氏。 今回は、星野源、ポルノグラフィティ、東京スカパラダイスオーケストラなどといった、数多くの有名アーティストの作品に携わる一流のエンジニアである渡辺氏に、ご自身のキャリアやミックスについての考え方をお聞きしました。

Nami
2024-02-2811min read

〜 目次 〜

  1. 1右も左もわからずスタジオに飛び込んだのが始まり
    1. 1.1-音楽に関わろうと思ったきっかけは?
    2. 1.2-エンジニアになろうと思ったきっかけは?
    3. 1.3-最初はアシスタントでしたか?
    4. 1.4-そのスタジオには何年くらい所属しましたか?
    5. 1.5-では、そこのスタジオでエンジニアのスキルをつけていったのですか?
    6. 1.6-スタジオに入る前は、ご自身でエンジニアについての勉強はされていましたか?
    7. 1.7-スタジオを辞めてからフリーで活動されていたとのことでしたが、お仕事はどのように獲得されてきたんですか?
    8. 1.8-現在、様々な有名アーティストを手がけていますが、そこに到達するきっかけなどはありましたか?
    9. 1.9-エンジニアとしてキャリアが上がったきっかけになる仕事はありましたか?
    10. 1.10-そのお仕事について詳しく教えてください
    11. 1.11-長いキャリアの中で、音楽のトレンドはどのように変化してきたと感じていますか?
    12. 1.12-その変化に気づいて起こすアクションはありますか?
    13. 1.13-では、ご自身のスタイルを続けてらっしゃる?
    14. 1.14-アーティストとしてもご活躍されていたとのことですが( ram jam world )、アーティストとしての経験がエンジニアに与えた影響はありますか?
  2. 2アーティストの意向が第一、翻訳機能はエンジニア側が持つ
    1. 2.1-省二郎さんが思う、ミックスする上で必要な考え方は何ですか?
    2. 2.2-省二郎さんが思う、良いミックスと悪いミックスの違いを教えてください
    3. 2.3-具体的にはどのような部分ですか?
    4. 2.4-省二郎さんが思う、ミックスのやりがいを教えてください
    5. 2.5-アーティストの要望が音楽的に自分の考えと合わない場合はどうしますか?
    6. 2.6-では、省二郎さんのスタジオに入る時のマナーは無いですか?
    7. 2.7-ミックスにおいて、音楽のジャンルによるアプローチの違いはありますか?
    8. 2.8-難しいジャンルや、得意なジャンルはありますか?
    9. 2.9-実際にその経験で解決した実体験はありますか?
    10. 2.10-海外のエンジニアの Youtube を参考にされているとお聞きしましたが、参考にされている人物はいますか?
    11. 2.11-具体的にどんな部分を参考にされましたか?
    12. 2.12-スタジオにモニタースピーカーがいくつかありましたが、渡辺省二郎さん持参のスピーカーを教えてください
    13. 2.13-プラグインではなく実機をメインに使うとのことでしたが、その理由を教えてください
  3. 3要望に応えられるよう、様々な経験をする
    1. 3.1-ミックスを上達させるために、すぐ実践できるアドバイスをお願いします。
    2. 3.2-それはどのようにしてミックスに影響がありますか?
    3. 3.3-ミックスをする上で長期的に取り組んでいく必要がある永遠のテーマ、課題があればお聞かせください。
    4. 3.4-直感的な音作りができるようになるまでに、どのようなトレーニングをされてきましたか?
    5. 3.5-耳をよくするために普段から音楽を聴くときに心掛けていることはありますか
    6. 3.6-お酢とミックスに関係があるんですか?
    7. 3.7-省二郎さんが行う、ミックスのプロセスがあれば教えていただきたいです
    8. 3.8-惰性でやっていることに理由はありますか?
    9. 3.9-これから一人前のエンジニアを目指す方達にメッセージをお願いします
    10. 3.10-もし自分が実力不足と感じている案件が来た場合も、飛び込んで見た方が良いという事ですか?
    11. 3.11-反対に、あまりよく出来なかったと思っても、後日聞いたら良かったという事はありますか?
  4. 4渡辺省二郎氏プロフィール

右も左もわからずスタジオに飛び込んだのが始まり

-音楽に関わろうと思ったきっかけは?

高校生の時に音楽が好きだったからですね。
時代的に流行ってたんで、パンクとか聞いてました。洋楽で言えばネオパンク、邦楽で言えばイエロー・マジック・オーケストラがすごい流行っていて。

-エンジニアになろうと思ったきっかけは?

特に理由はないです。音楽関係ならなんでもいいなと思っていました。
ただ、制作スタッフのなかでエンジニアの仕事は楽しそうだなって思って、それで紹介の紹介とかでスタジオに入ることができたのが始まりですね。

-最初はアシスタントでしたか?

そうですね。奴隷みたいな感じでしたよ。(笑)
高校卒業してすぐ、18歳でスタジオに入ったので扱い方も大変だったと思います。田舎もんの若造が来て、まず話し方からだみたいな。(笑)

-そのスタジオには何年くらい所属しましたか?

18〜23歳くらいまではいたんで、結局5年程ですかね。
今の青葉台スタジオで、当時はキティレコーディングスタジオという名前でした。

-では、そこのスタジオでエンジニアのスキルをつけていったのですか?

そうですね。
最初の一年間くらいは何にもできないので、それからアシスタントになって、23歳くらいの時に辞めました。辞めてからは今までずっとフリーでやってます。

-スタジオに入る前は、ご自身でエンジニアについての勉強はされていましたか?

全くやってませんでした。
スタジオに入るまで何も知らなかったんですよ、やばいですよね。

これ全部覚えるんですか?って聞いちゃいました。当たり前だろって言われましたけど。

-スタジオを辞めてからフリーで活動されていたとのことでしたが、お仕事はどのように獲得されてきたんですか?

23歳でフリーになったとはいえ、初めは仕事のないプータローでした。

時代的にも円満退社はなかなか難しくて、辞める時はお前なんか潰してやるって言われてスタジオは出禁になっていましたし。キティレコードからは、「あいつとは仕事しちゃダメだ」って接近禁止命令も出されていたので、当時自分が期待してた部分は全部塞がれちゃってましたね。そのおかげで今があるんですけど。

なので、仕事はスタジオ時代の知り合いからもらったり、あとは自分で営業に行ったりもしました。
いまだに感謝していますけど、CM とか劇伴の仕事を一週間に一回くらい回してくれる人たちがいて、そういうので食い繋いでました。

-現在、様々な有名アーティストを手がけていますが、そこに到達するきっかけなどはありましたか?

理性を外したことですね。

-エンジニアとしてキャリアが上がったきっかけになる仕事はありましたか?

電気グルーヴの仕事です。今でもありがたいと思ってます。

-そのお仕事について詳しく教えてください

当時90年代前半でダンスミュージックの流行と一緒に DJ も流行り出していて、自分も暇だったので DJ のライブを手伝ったりしていました。
ある時に当時人気だった「 808 State 」っていうイギリスのテクノユニットのライブの前座を、僕が関わっていた DJ チームと電気グルーヴがやる事になって、そこで初めて電気グルーヴの2人と知り合ったんです。

僕が関わってた DJ チームは、DJ が3人くらいステージに乗ってパフォーマンスをして、自分は PA として手伝っていました。

PA って意外とやることがなくて暇だったので、勝手に切ったりしてダブミックスみたいなことをやってて。それを見てた電気グルーヴから「レコーディングもやるんですか?」って声をかけられたのが始まりです。

彼らの1枚目のアルバムはマンチェスターで作ったみたいなんですけど、2枚目のアルバムは日本で創ろうっていうとこにエンジニアとして僕が呼ばれて。
そこにプロデューサーとして入っていた朝本浩文さんと出会いました。そのあと朝本さんと仕事をいっぱいするようになって、そのうちの一人の UA が売れて、バブル到来という感じですね。

そういえばそのちょうど3日前くらいに電気グルーヴの卓球と瀧の2人と飲みに行ったんですよ。久しぶりに話してて、ずっと当時の話でずっと爆笑してました。

卓球が隣で、「渡辺さん茗荷好きだったよね、スーパー行って茗荷見るたびに渡辺さん思い出すって」って、細かいことまで覚えてて。変わってるなぁって話してました(笑)

-長いキャリアの中で、音楽のトレンドはどのように変化してきたと感じていますか?

自分ではわからないですね。自分は良いと思ってやってたら、気づいたらトレンドから外れてたりして「メインスタジアム向こうじゃん!」みたいなことありますから。怖いですよ、この業界。

-その変化に気づいて起こすアクションはありますか?

気づいた時は時すでに遅しですね。簡単に反映できるものでもなくて、その道にはその道のプロがいるので、無理して真似をすると痛々しい感じになっちゃうので。

-では、ご自身のスタイルを続けてらっしゃる?

勇気を持つしかないですよね。

-アーティストとしてもご活躍されていたとのことですが( ram jam world )、アーティストとしての経験がエンジニアに与えた影響はありますか?

ram jam world は、それこそ朝本さんとのユニットなんですけど、ダブバンドだったのでやっている内容的にはエンジニアと変わらないんです。

ダブミュージックは「エンジニアズミュージック」ともいわれてて、元々はジャマイカのレゲエが発祥で、既存曲の音を抜いたり、足したり、エフェクトをかけたりしてリミックスのように曲を別物として作り上げる、そういうジャンルがあるんですよ。
なので僕がやっていた内容はミキシングなので、アーティスト活動ではないです。
たまにそういう切り取られ方をしますけどね。

アーティストの意向が第一、翻訳機能はエンジニア側が持つ

-省二郎さんが思う、ミックスする上で必要な考え方は何ですか?

アーティストのことを第一に考えるべきということですね。
あと、アーティスト側の要望に対して翻訳機能はこちらが持つということが大事です。

-省二郎さんが思う、良いミックスと悪いミックスの違いを教えてください

それは主観的なものですから、クライアントやアーティストがいいって言えばそれはいいミックスなんですよね。技術的には色々ありますけど、この業界は売れたら勝ちみたいなとこもあるんでね。

売れてる曲でもミックスの音が技術的にひどいものもありますよ。曲は良くても、ミックスだけで聞いてみるとね。
ある曲を、なんでこの曲こんな音悪いんだろうって思ってたらミックスしていたのが後輩だったんですよ。僕が優しかったら教えてあげるんですけど、僕は意地悪なのでニヤニヤしながら見てます。(笑)

-具体的にはどのような部分ですか?

専門的な部分なので、一般のリスナーが聞いて変に思わなければいいと思いますよ。
もし聞いていてこれはどうなのって思うミックスがあれば、ツイッターとかに書き込んだらいいんじゃないですかね、そうやって知れ渡っていくことは大事だと思うので。

-省二郎さんが思う、ミックスのやりがいを教えてください

現場のみんなが喜んでくれることです。
他のエンジニアの方々の中にはマーケットを考えてらっしゃる方もいると思いますけど、僕はリスナーというよりはその場にいる人の方に興味がありますね。

-アーティストの要望が音楽的に自分の考えと合わない場合はどうしますか?

そういう場合は、自分がいいなと思っていることをまずは混ぜて出してみて、そのまま通ればそれでいいし、アーティストサイドが違うって思えばすぐ引っ込めます。最初から最後まで全部アーティストの意向が第一なので。

色んな人が下から上がってくると思うんですけど、その途中で「俺はあいつを知ってるんだ」っていう自慢とか、「これはこういう風にやるんだ」とか言ってくるマウントエンジニアおじさんと出会うかもしれないんですけど、そういう人たちに騙されないようにしてほしいです。

スタジオのマナーとか、うるさい人いるでしょ?関係ないから。好きにやって下さい。

-では、省二郎さんのスタジオに入る時のマナーは無いですか?

ないです。僕は頂くものは頂いているので、酔っ払ってきていただいても大丈夫です。(笑)

-ミックスにおいて、音楽のジャンルによるアプローチの違いはありますか?

多岐のジャンルに渡って仕事ができるっていうのは​​日本で仕事するメリットですよね。

アメリカだったらそれぞれのジャンルに特化した人がいて、ジャズの人がトラップとか、トラップの人がメタルとかはやることは無いので。
自分は色々なジャンルをやらしていただいているので、ラッキーだと思います。

そういう意味では、日頃からいろんなジャンルの音楽を聞くというのは大事です。
その音楽がなぜ気持ちいいと思われているのかを自分でも分からないとそれを表現するのは難しいので、まずはそのジャンルの気持ちよさを体感する必要があります。

その体感を経験していたら、ミックスする上でもその気持ちよさを自分が感じればいいわけですから。

-難しいジャンルや、得意なジャンルはありますか?

ジャンルとはまた違うかもしれないですけど、政治的なところで判断下されることが多いので、アイドルは常日頃勉強になることが多いです。

A と B の主張がぶつかり合った時、どっちのほうが偉いかとかを加味するとかね。芸能系はそういうのが多いです。あとは CM もヒエラルキーがはっきりしてます。クライアント、代理店、制作会社、下々に自分たちがいるみたいな。

そういうことが勉強になって、バンドレコーディングとかで揉めた時の解決法に繋がったりします。

-実際にその経験で解決した実体験はありますか?

若い子のバンドとかだと、俺の音が聞こえないとか曲の方向性に対してこうじゃ無いとか揉めたりはありますね。

なので、A か B で揉めている場合は違う視点の C を提示して、基本的にはどちらかだけ妥協することが無いように話を持っていきます。A か B にしちゃうとどっちが譲歩するってことになってしまうので、実際に音がどう変わったっていうことよりも、この後にしこりが残らないように対応しています。

音で良い悪いを考えていると終わりが無くて、その日はこれで完璧って思っていても、次の日聞いたら全然じゃん…ということもあるので。
僕もそうですけど、こういう場合は皆んなでゾーンにハマっちゃっているんですよね。

-海外のエンジニアの Youtube を参考にされているとお聞きしましたが、参考にされている人物はいますか?

Mix With The Masters っていう海外の第一線で活躍してるエンジニアのミックス解説が見れるコンテンツがあって、それはよく見てますね。結構高くて、年間4〜5万円くらいです。

初期の頃は自分が凄いって思っていた人たちが軒並み解説してたんで、めちゃめちゃ勉強になりましたね。

-具体的にどんな部分を参考にされましたか?

例えば、さっき自分が EQ かけるのを見て「そんなにやるんですか?」ってなったでしょ?そんな感じです。こんなにかけちゃって良いんだなぁとか、いかに自分が小さい世界で、細々とやっていたのかとかがよく分かります。

あとは音で判断しなきゃいけないのに視覚に囚われてたと気付かされたりね。

※渡辺省二郎さんのトラック解説記事はこちら

MIX解説with渡辺省二郎氏:アコギ、エレキ、ストリングスの処理について | ONLIVE Studio blog
エンジニアとして40年ほどのキャリアを持ち、今もなお第一線で人気アーティストの楽曲を手がける渡辺二郎氏。本プロジェクトでは、サウンドオンライブの所属アーティストである水村宏輔氏の新曲『アゲハ』のミックスを渡辺氏に依頼し、その一部始終を記事として追っています。

-スタジオにモニタースピーカーがいくつかありましたが、渡辺省二郎さん持参のスピーカーを教えてください

いつも使ってるのは YAMAHA NS-10M 、AURATONE 5C Super Sound Cube 、MANLEY TANNOY ML10 です。

-プラグインではなく実機をメインに使うとのことでしたが、その理由を教えてください

使い慣れているからです。
音の違いもありますけど、違っていても慣れていけばいいですからね。

プラグインだけでやってる人はいっぱいいるので、プラグインのみでも不可能なことなどは何もないです。

要望に応えられるよう、様々な経験をする

-ミックスを上達させるために、すぐ実践できるアドバイスをお願いします。

やっぱり遊ぶことじゃないですかね。世の中に出て遊びまくることです。

-それはどのようにしてミックスに影響がありますか?

真面目か!(笑)
やってみたらいいんじゃないですか?自分で。飲む、打つ、買う。

役立つかもしれないですよ。ハイリスクハイリターンで頑張って行ったらどうでしょうか。ハイリスクなんで、全くノーリターンってことも多いですし。同時にロクでもないことも起きますけどね。

何気にそこで反省しないでもらっていいですか!(笑) (同席していた自社のアーティスト水村浩輔氏に向けて)

やっぱり踏み込んでいかないとね、落ちなくてもいいんで崖っぷちはのぞいた方がいいです。僕は何度も落ちちゃってますけどね。

-ミックスをする上で長期的に取り組んでいく必要がある永遠のテーマ、課題があればお聞かせください。

特にないですね。こういうミックスが良いなと思ったら、ひたすら真似するだけです。ラッキーなことにミックスには著作権がないので、パクリ放題です。

今回の僕が行った処理もどんどん真似して頂いて構わないですよ。「これ俺がやったやつだ!真似だ!」とかは言わないですし。「これは企業秘密なんで」って言うやつ程、秘密にすることのようなことしてないと思います。

-直感的な音作りができるようになるまでに、どのようなトレーニングをされてきましたか?

経験を重ねていくしかないですね。経験が長いので、ストライクゾーンに行く距離が短くて済むだけです。

まぁ、でも、本当は遠回りした方が良かったりするんですけどね…近道を知ると近道しか行かなくなりますからね。
成功率の高い道しか選ばなくなってくるので。

-耳をよくするために普段から音楽を聴くときに心掛けていることはありますか

まずは朝一杯のお酢を飲むことですね。

-お酢とミックスに関係があるんですか?

嘘です。(笑)
ちゃんと答えると、とにかく音楽をたくさん聞いて、感動することです。いろんなジャンルが様々な人に支持されているので、自分もその感動を共有することが大事だと思います。

バランス的にも、ジャンルによって全然ジャンルによってバランス違うじゃないですか。それぞれのジャンルをちゃんと気持ちいいと思って聞けば、バランスも身についていくと思います。

例えばサルサとレゲエは全然バランスが違うんで、低音から高音までサルサやっているのに、ロックのバランスで整えちゃうと成り立たないわけですよ。それに気づくには自分がサルサを聞いて、気持ちいって思う経験をしてないと出来ないですから。

今の時代は運よく、月1000円とかで聴き放題のサブスクがあるので、片っ端から聞いていったら良いですよ。

-省二郎さんが行う、ミックスのプロセスがあれば教えていただきたいです

僕の場合はボーカルを最初に作るんですけど、そのあとは特にないですね。
いつも惰性でドラム、ベースの順でやってますけど、何からやれって言われたら何でもできます。ボーカルなしのインストが一番難しいですね。

-惰性でやっていることに理由はありますか?

理由はないです。やっぱりみんな理由とか意味を欲しがるんですよね。だからなんとか教室とかいう名前を付けて、ミックスセミナーのルールとかを散々言って喋ってたら儲かるでしょうけど、やれないですね。

理由とか意味とかどちらもそんな必要ないんですよ。

-これから一人前のエンジニアを目指す方達にメッセージをお願いします

僕のような方向性のエンジニアを目指すのなら、いろんな人のオーダーに答えられなければいけないので、たくさんの経験をして、たくさんの音楽を聴いて、自分の引き出しをたくさん持つことが大事です。

自分で仕事を選んでもいいですけど、選べるほど仕事があるのかはまた別の話ですから。色々な仕事に対応できた方がいいじゃないですか、そのほうが楽しいですし。

そのためには、音楽的な引き出しも大事ですし、例えばさっき話にあった政治的な雰囲気がビシバシ漂ってるなかで、方向性を示していく場合は人生的な引き出しが必要だったりね。そっちの経験もたっぷり積んだほうがいいです。

あとは打ちのめされる事も大事ですね。とにかく飛び込んでみる。
例えば、オーケストラの仕事の依頼が来たからやりたい!でもできないから断るってなったら、もったいなくないですか?

オーケストラはオーケストラで、そこの仕事ではすごい大きい感動があるはずで、そういう大きな現場に立ち会えることはラッキーなことなのに、自分が閉ざしているせいでそういう世界へのアクセスがなくなってしまうというのは勿体無いと思います。

-もし自分が実力不足と感じている案件が来た場合も、飛び込んで見た方が良いという事ですか?

もちろんです!
常に僕は実力不足ですからね。目指すところに到達してないと感じます。

スタジオで聞いた時は目標に到達したかなと思って朝起きて聴くと、がっかり、単なる自惚れだったなって思ったりします。まぁそれが普通だと思いますけどね。2、3日経っても「完璧!」って思う人は頭おかしいと思います。

-反対に、あまりよく出来なかったと思っても、後日聞いたら良かったという事はありますか?

自分ではないですけど、だめだったなって思ってた作品を他人から「すごいよかったですね」って言われることはあります。

自分の思っている評価は独りよがりのものでしか無いので、それが世に出てどう評価されるかっていうのは全然違う目線なんです。なので、自分が全然だめだったって思ってたものがよかったって言われることの方が多いですね。

まぁ、それは曲がよかったっていう場合が多かったりするんですけどね。
曲がよければなんでもよく聞こえちゃうので。だから、楽曲が持つパワーに、音が引きずられているっていうことが多いですよね。


渡辺省二郎氏プロフィール

約40年のキャリアを持ち、今もなお第一線で活躍するエンジニア。
星野源、東京スカパラダイスオーケストラ、佐野元春など、様々な有名アーティストのレコーディングやミックスを手がけ日本のメジャーシーンを支えている。
渡辺省二郎 (@shojiro.watanabe) • Instagram photos and videos
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Nami
Written by
Nami

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。

監修

Masato Tashiro

プロフェッショナルとして音楽業界に20年のキャリアを持ち、ライブハウスの店長経験を経て、 2004年にavexに転職。以降、マネージャーとして、アーティストに関わる様々なプロフェッショナルとの業務をこなし、 音楽/映像/ライブ/イベントなどの企画制作、マーケティング戦略など、 音楽業界における様々な制作プロセスに精通している。 現在はコンサルタントとして様々なプロジェクトのサポートを行っている。

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