中堅スタジオエンジニア対談(後編) | 僕はもう音楽がないと、やっていけないというか、生きていけないんで。

アーティストやミュージシャンのレコーディング現場で、音響機器やDAWを駆使して最高の音を録音するレコーディングエンジニア。音楽がまさに生み出されていく現場に関わることは非常に刺激的であり、大きなやりがいのある仕事だといえるでしょう。 そんなレコーディングエンジニアたちのリアルに迫るべく、都内3箇所にプロユースのレコーディングスタジオを構え、さらにはライブハウスの運営も行う Studio A-tone(スタジオアートーン。運営会社:株式会社フリーマーケット)に関わるプロフェッショナルたちにお話しを伺います。

asu
2023-09-298min read

第2弾となる本記事は、別々のスタジオに所属する2人のサウンドエンジニアへの対談形式のインタビュー。「Studio A-tone(株式会社フリーマーケット)」所属 松本 英人(まつもと ひでと)さんと、「株式会社サウンド・シティ」所属 中山 太陽(なかやま たいよう)さんです。

前回は、お二人のキャリアで共通している部分や、お仕事環境の違いなどをお聞きし、それぞれのバックグラウンドが分かりました。

前回の記事はこちら

中堅スタジオエンジニア対談(前編) | 何回も聞くことが、僕は苦じゃないというか、むしろ何回も聞きたいと思える人だったんです。 | ONLIVE Studio
アーティストやミュージシャンのレコーディング現場で、音響機器やDAWを駆使して最高の音を録音するレコーディングエンジニア。音楽がまさに生み出されていく現場に関わることは非常に刺激的であり、大きなやりがいのある仕事だといえるでしょう。 そんなレコーディングエンジニアたちのリアルに迫るべく、都

後編となる今回は、積み上げてきたキャリアから現在は音楽そのものやサウンドエンジニアというお仕事について、お二人がどのような思いや考えを持っているのか伺います。

サウンドエンジニアとしての強みとスキルについて

左:中山さん、右:松本さん コントロールルームにて

−10年ほどのキャリアを持つお二人ですが、ここまで積み上げてこられたご自身の強みや売りは何だと思いますか?

中山さん:

いま、自分的にはどちらかというと音の良さではなくてバランスで売ってるつもりです。お客さまから来た音を「すげえかっこよく僕の音にしてくれる!」みたいな感じではなく、どちらかと言えばお客さんから来た素材そのままでいいので、 それを良い感じに聞きやすい、というか、聞かせるというか。打ち込みにしても、お客さんやアレンジャーさんが打ち込んできたものに意図があると思うので、それを汲み取って聞きやすくするようにする、というイメージですね。そこまで変えないようにしています。

−ヒアリングで大事にされていることはありますか。

中山さん:

聞き出すというか、話すよりも感じ取るようにすることを大切にしていて「どっちかな?」という選択肢を置いておいて、お客さんの反応や、何かを言われた瞬間にすぐ反応できるようにしています。そのために、いくつか引き出しを用意しておくようなイメージです。

これは結構先輩のやり方を見てて、真似をした感じです。

松本さん:

やっぱり入ったスタジオの先輩の仕事を見る、っていうところから始まるんで、そういうところから吸収していって、その後から自分なりの方法を模索していくというのが基本だと思いますね。

その点でいうと、どこのスタジオに入るのかって、意外と自分の今後のやり方になる大切なところかもしれません。

−松本さんが強みにしているところはどんなところでしょうか。

松本さん コントロールルームにて

松本さん:

僕がこだわっているというか、大事にしてるのは「リピート性能が高い音にしたい」というところです。どんなにいい曲でも、1回聞いて「めちゃくちゃいい。ふう、よしよし。」みたいな感じじゃなくて、1回聴き終わって「あ、もう1回!」って再生ボタンをポチっとしたくなるようなミックスにしたいと思ってます。

それが最近、このことを伝えているわけではなかったんですが、実際にアーティストさんに「繰り返し再生したくなるようなミックスになってます」って話をされたことがあって。「じゃあ、これはやっぱりこれからも、自分の中で大切にしていこう」という風に思いました。やっぱり何回も聞いて欲しいので。

−繰り返し聴いてもらうためには、どういう部分に気をつけるのでしょうか。

松本さん:

耳が疲れないようにっていうのもすごくあります。あとは、あまりにも分かりやすく作りすぎちゃうと、1回で理解されちゃうんで、そういう繊細な部分を残してミックスをしたい、というのはありますね。元がそういうアレンジじゃないとそもそも作れないかもしれないですけど「ここの要素はそういう風にしよう」というのは自分で判断してやっています。

とはいえ、ある程度わかりやすくないとっていうところもあります。なので、そこはバランスで、自分の中でせめぎ合いですね(笑)。

中山さん:

1小節だけリバーブを少なく、とか、そういうギミックがあるじゃないですか。「なんか今、良かったな」という印象を聞く人に与えつつ、でも曲が流れていって「なんかさっきの瞬間よかったなぁ」って残る部分があったら、もう1回聞こう、となりますよね。

−そうしたテクニックや考えの積み重ねだったりするんですね。お二人は、ここからどのような音楽のスキルを身につけていきたいと考えていますか。

中山さん:

最近ちょうど思っていたのは、さっき言ったように、僕は自然なミックスばっかりやっていたので、かっこいいミックス、音を変える方向のミックスもできなきゃダメだな、と思っています。それで、プラグインを模索してるところです。このコンプみたいな音を、バシ!といったイメージです。どちらかというと、洋楽っぽくなるものを研究しているところですね。そういうミックスも出来なきゃダメだな、と思って。

松本さん:

僕は、よく聞く音楽がいわゆる生音が基本の楽曲がすごく多いんですよ。逆に、ヒップホップとかもそうですけど、打ち込み主体の音楽に対するスキルももっと磨いていかないとなって、最近すごく思います。そういう研究も、自分の中でちゃんと進めないとなって。

サウンドエンジニアを続ける上で大切なこと

Studio A-tone 東麻布 Cスタジオ コントロールルーム機材

−ご自身の音楽の幅を広げることも大切なのですね。では、エンジニアとして仕事を続けていく上で大切なことは何だとお考えですか。

中山さん:

僕は、どちらかというとポジティブな考えの持ち主で、もともと音楽が好きで入ってるんですよ。1日中音楽を聴くだけで仕事になるということが、すごく幸せに感じています。仕事っていうストレスが全然ないんですよね。

スタジオに入社しても、時々仕事がしんどいしんどいって言っている人がいるんですけど、なんというか、音楽を好きという気持ちを持ち続けて欲しいなと思います。

−お家でも音楽を聴いていますか?

中山さん:

ずっと聞いてます。息子もずっと聴いてます(笑)。音楽がもともと好きな方なので。

アシアシの時ですら、仕事中はずっと音楽を聴かせてもらえているわけなので、、、めちゃくちゃ寝てましたけど(笑)

音楽とは関係のない会社で、いわゆるサラリーマンというか、デスクワークをずっとやってるというわけではないので、ただただ音楽に携われている環境で、かつお金をもらえてるんだなぁと思うと本当に幸せです。楽しいです。間違いなく、他の仕事はできないです。

松本さん:

僕は、音楽はもちろん楽しいんですけど、その「楽しい」の中には、やっぱりアーティスト側って、産む苦しみがあるじゃないですか。「この曲はどうすればいいんだ」といった悩みが。

うちのスタジオでは、インディーズアーティストに安くスタジオを貸してレコーディングしたりすることもあるんですけど、そういう時に一緒に頭を抱えて悩んだりする状況があるんですよね。「ここはどうしたらいい」みたいなコミュニケーションをとったり、そういう、産みの苦しみも一緒に楽しめるといいな、と思いますね。

そういう苦しみがあって、聞く人が楽しんでもらえる音楽を作れる、そして、聞いてもらえたら、もちろんこちらも嬉しいし。そういうところまで含めて楽しいんだ、と思ってやっていけるといいなと思います。

−深い愛ですね。

松本さん:

いや、僕はもう音楽がないと、やっていけないというか、生きていけないんで。

最後に

−お二人がお仕事を始められてから、ここ10年ほどでサブスクや配信サービスなど、音楽を取り巻く環境も変わっていますが、音楽業界を目指す方にメッセージをお願いします。

中山さん:

軽い感じになりますけど、楽しいよってのはありますね。

サブスクも始まって、目指し方も変わっているかも知れませんね。よく昔は、CD などのクレジットを見て、ここに「載りたい」とか、メイキング見て憧れを抱いたり、というのはありました。でも最近は、皆さん DVD もあまり買ってもらえなくなってんですよね。多分 YouTube で流れてたら見るくらいで。

松本さん:

そうですね。目指す上で、ずっと音楽を好きでないとやっていけないから、やっぱりそういう気持ちは絶対に忘れないで欲しいですね。

中山さん:

多分今の話、2人とも本当に痛感してることですよね。

松本さん:

はい。本当に素直にそう思います。

−今回、初対面で別のスタジオのサウンドエンジニアのお二人に対談していただきましたが、いかがでしたか。

左:中山さん、右:松本さん コントロールルームにて

中山さん:

なんか、全体的に、同じような経験をしてきたという印象を受けました。

松本さん:

はい。全然違う、ということはなかったです。苦労されてきたんだろうなぁ、ということもなんとなく感じましたし。シンパシーというか(笑)。

中山さん:

とってもお話ししやすかったです。


ということで、異なるスタジオでキャリアを積むサウンドエンジニアのお二人の、貴重な対談をお届けしました。

設備やお仕事内容など、スタジオとしての特徴が異なる一方で、音楽に携わるエンジニアとして通じるものが多かったようです。10年以上のキャリアを続けてこられたのも「音楽が好き」という気持ちがあってこそ。関わるお仕事の内容や、得意とする部分が違えど、サウンドエンジニアを極めていくと辿り着く景色は同じなのかも知れません。さらに、興味を持てる分野だからこそ、次のステージを目指す向上心や、「楽しい」と思える気持ちが沸き続けているのだと分かりました。

自分の「好き」を追求し続けることが、競争率の高い音楽業界を生き抜くためのポイント。あなたはどのように音楽と関わっていきたいですか。「 ONLIVE Studio blog 」では、音楽に関わる様々な業種の方のインタビューを発信し、「サウンドメイキングに新たな発見を」読者に届けるため、楽曲制作に関する記事を公開していきます。


プロフィールご紹介

松本 英人 氏

名前:松本 英人(まつもと ひでと)
所属:Studio A-tone(株式会社フリーマーケット)
所属年数:2012年〜
生年月日:1991年5月4日
出身:青森県
出身校:日本工学院音響芸術科 蒲田校
趣味:麻雀、TVゲーム
音楽以外での目標:健康的な生活を送ること

中山 太陽 氏

名前:中山 太陽(なかやま たいよう)
所属:Sound City(株式会社サウンド・シティ)
所属年数:2012年〜
生年月日:1988年7月23日
出身:兵庫県加古川市
出身校:
  甲南大学 情報システム工学部
  CAT 音響エンジニアコース
趣味:ドラマ、映画鑑賞、お子さんとゲームをする
音楽以外での目標:港区の住所を保ち続ける!

Studio A-tone(スタジオアートーン)

WEBサイト:https://www.studio-a-tone.com
Studio A-tone 東麻布
  住所:東京都港区東麻布1-8-3 エスビルディング
Studio A-tone 四谷
  住所:東京都新宿区四谷三栄町14-5 名倉堂ビルB2
SoundValley
  住所:東京都新宿区四谷本塩町15-12 カーサ四谷 羽毛田ビル B1,B2

SoundCity 麻布台(サウンドシティアザブダイ)

WEBサイト:https://www.soundcity-w.com
SoundCity 麻布台
  住所:〒106-0041 東京都港区麻布台2-2-1 麻布台ビル
南青山STUDIO
  住所:〒107-0062 東京都港区南青山2-12-15 南青山二丁目ビル4F
世田谷STUDIO
  住所:〒157-0073 東京都世田谷区砧6-9-3 ハーモニーハイツ 1F
LUXURIANT STUDIO
  住所:〒106-0045 東京都港区麻布十番1-9-7 麻布KFビル6F
TRYBRIDGE STUDIO
  住所:〒162-0041 東京都新宿区早稲田鶴巻町110番地 玉井企画ビル3F
WONDERHOLIC LAB.
  住所:〒154-0011 東京都世田谷区上馬4-17-4 アルファ駒沢B1F

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Written by
asu

5歳の頃にピアノを始め、鍵盤や打楽器に触れる。 学生時代はヒットチャートを中心に音楽を聴いてきたが、 高校生の頃にラジオ番組を聴くのが習慣になり、 次第にジャンルを問わず音楽への興味を持つようになる。 野外フェスや音楽イベントへ通い、ライブの持つパワーや生音の素晴らしさを実感。 現在はピアノと合わせてウクレレを練習している。 弾き語りが出来るようになるのが目下の目標。

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