ディレイとは
ディレイとは、エフェクトの一種です。
日本語に訳すと「遅延」という意味になり、その名の通りディレイエフェクトでは、最初の音が鳴った後にある一定期間遅延して音を繰り返します。
百聞は一見にしかずということで、聞いてみましょう。
以下の動画では、始めにリバーブがかかった音源が流れた次に、ディレイがかかった音源が流れます。
ディレイをかけることで、音に空間の広がりを演出したり、立体感を加えたり、独特なサウンドメイクを実現することが期待できます。特に、ボーカルやギターにかけることが多いです。
楽曲全体を通してディレイを使用すると楽曲の雰囲気作りに役立ちますし、一部分だけに効果的にかけることで、印象的なアクセントを生み出すことも可能です。
例えば、以下の楽曲では、ボーカルの一部分に強いリバーブをかけることで効果的な演出をしています。秒数を指定していますので、ぜひお聴きください。
ディレイの歴史
1940年代頃、オープンリール式のテープを用いた録音が音楽制作の主流でした。
このテープを活用してディレイを作る「テープ・ディレイ」という手法を活用した先駆者として作曲家の Pierre Henri Marie Schaeffer(ピエール・シェフェール)が挙げられます。
1950年代頃になると、Sun Records(サン・レコード)の伝説的なプロデューサーである Sam Phillips(サム・フィリップス)が「スラップ・バックエコー」というディレイ・サウンドを普及させました。
この手法は、短いディレイとフィードバックを利用したもので、Elvis Presley(エルビス・プレスリー)や Buddy Holly(バディ・ホリィ)の楽曲に使用され、ロックンロールのサウンドを象徴する重要な技術となりました。
時代が進み1960年代頃になると、ロックバンドがメインストリームを席巻し始め、ロックバンドによりディレイが積極的に取り入れられるようになります。
The Beatles(ビートルズ)は常に新しいものを試したアーティストでしたが、ディレイに関しても例外ではありません。『Tomorrow Never Knows』や『I Am The Walrus』などではディレイを駆使し、新しいサウンドメイクを模索した先駆的な存在でした。
Pink Floyd(ピンク・フロイド)もまた『Run Like Hell』などでディレイを使用し、独自の空間的なサウンドを構築したグループの一つです。
1960年代後半には、アナログ回路を利用したアナログディレイが登場し、1970年代にはジャマイカ発のダブやレゲエといった音楽ジャンルでもディレイが重要な要素として使用されるようになりました。
1980年代に入ると、デジタル技術の進化に伴い、デジタルディレイが普及します。デジタルディレイは、精度の高いタイミングと多彩な機能を提供し、従来のアナログディレイにはない柔軟性をもたらしました。この時期には、ディレイがロックやポップス、エレクトロニカなど多岐にわたるジャンルで活用され、スタジオでもライブでも欠かせないエフェクトとして定着しました。
近年では、テープディレイやアナログディレイ、デジタルディレイをエミュレートしたソフトウェアプラグインが広く普及し、プロからアマチュアまで多くの音楽制作者が手軽に利用できるようになっています。
エコーやリバーブとの違い
ディレイとよく混合しやすいエフェクトとして、エコーやリバーブが挙げられます。
まずは前提としてリバーブについて知ると理解しやすいでしょう。
リバーブは、空間に反射した音、つまり残響を再現するエフェクトです。イメージとしてはお風呂で歌っている時の声の響きや、コンサートホールで声を出した時の響き方に近いです。
以下の記事では、リバーブについて詳しく説明していますので、合わせてご覧ください。
一方で、エコーもリバーブと同様に、空間に反射した音を再現しているのですが、リバーブよりも音が空間に反射してから耳に聞こえるまでの時間が長いものとされ、イメージとしてはやまびこに近い音です。
また、ディレイはエコーと似ていますが、ディレイは音を反復させたもので、エコーは自然的な反響を模したものとされています。
ディレイの種類
テープディレイ
磁気テープを使用して作られるディレイです。これはディレイの初期から行われている生成方法です。
録音ヘッドと複数の再生ヘッドが一列に並び、録音してすぐ再生することによってディレイを作り出しています。
有名な名機として Roland Re-201 Space Echo や WATKINS CopiCat などが挙げられます。アナログ機器ならではのサチュレーションによる暖かさや、ノイズ、歪みが特徴です。
アナログディレイ
アナログディレイとは、 BBD素子(Bucket Brigade Devices)と呼ばれるものを使用して作り出されるディレイです。
繰り返すたびに音が変化し、それがアナログディレイならではのサウンドとして定評があります。
有名な名機として、DELUXE MEMORY MAN や BOSS DM-2 などが挙げられます。
デジタルディレイ
デジタルディレイとは、デジタル信号の処理によって生成されるディレイです。
原音をサンプリングすることで再現されるディレイで、特徴としてはクリーンで、精度の高いサウンドです。
有名な名機として、Pedal Roland SDE-3000 や Lexicon PCM42 などがあります。
ディレイの主なパラメーター
ディレイタイム
ディレイタイムは、原音からどれくらいの時間差でディレイの音を再生するか設定できる項目です。
このディレイタイムはトラックの BPM に紐付いて、¼や⅛、1/8dotted(付点八分音符)などのように音符で設定が可能です。
音符単位で設定することで、楽曲のちょうど良いリズムでディレイをかけることができます。
また、秒数(msec)でも設定可能です。
例えば、ピンポンディレイの場合はトラックの BPM に紐づいてかける場合が多いですが、スラップバックの場合は秒数で設定してかけることが多いです。
フィードバック
フィードバックは、ディレイを繰り返す回数です。
フィードバックの数値が大きいほど、ディレイは長く継続します。
フィルター
フィルターとは、任意の周波数から上、もしくは下の帯域をカットできる機能です。これによって、ディレイの音質を変化させることができます。
フィルターは、EQ を知るとより理解しやすいでしょう。
以下の記事では EQ について詳しく解説しています。詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
ディレイを活用したサウンド
ディレイの活用方法は幅広く、面白いサウンドを作ることができます。
今回はディレイを使って作られるサウンドの一部をご紹介いたします。
ピンポンディレイ
ピンポンディレイとは、遅延した音が左右のステレオから交互に振り分けて再生されるディレイです。
まるでピンポン玉のように左右に行ったり来たりすることから、この名前がついています。
スラップバック
スラップバックはディレイタイムを短く、フィードバックは少なく設定されたディレイです。
これにより顕著なディレイのかけ方とは異なり、リバーブ的な空気感や、音の厚みを演出できます。
スラップバックはギターにかけることが多く、ロックンロールやロカビリーなどのジャンルで使用されることが多いです。
スラップバックは数々の Elvis Plasly(エルヴィス・プレスリー)をはじめとするロックンロールアーティストのレコーディングを行った Sun Studio(サン・スタジオ)のアイコニックなサウンドでもあり、サン・スタジオを設立したSam Phillips(サム・フィリップス)が、このスタイルを発展させたとされます。
以下の動画では、Sun Studio によるスラップバックのサウンドについて聞くことができます。
リバースディレイ
リバースディレイとは、ディレイ部分の信号を逆再生するものです。
独特のサウンド感になり、アンビエンス的な雰囲気を作ることができます。
Cold play 『Strawberry Swing』のギターが、リバースディレイをかけたような雰囲気です。
また、以下の動画では、今回ご紹介したものを含めて、様々なディレイの種類を分かりやすく比較しています。
ぜひ合わせて見てみてください。
ディレイが印象的な曲
パスピエ 『とおりゃんせ』
ディレイが楽曲の幻想的な雰囲気を作り出しています。
斉藤和義 『 やさしくなりたい』
ディレイがかかったギターが印象的です。
Pink Floyd『Run Like Hell』
ギターのディレイには MXR のデジタルディレイ が使用されたのだとか。
Guns N' Roses - Welcome To The Jungle
ギターのディレイには Roland SRV-2000 Digital Reverb が使用されたのだとか。
David Bowie 『Let's Dance』
ボーカルのピンポンディレイが印象的です。
ディレイおすすめプラグイン
DAW に標準で搭載されているディレイもありますが、ここではサードバーティーのプラグインでおすすめのものをご紹介します。
Waves『H-Delay』
H-Delay Hybrid Delay|Waves Audio Japan
定番ディレイ・プラグインです。アナログとデジタルのハイブリットで、幅広いディレイサウンドを実現します。
ピンポンディレイやピッチの揺らぎ、フィルターなどのモジュレーションも簡単に付加することができるので、汎用性の高いプラグインです。
価格は公式サイトにて通常価格 28,600円(税込)となっています。
Soundtoys 『EchoBoy』
こちらも定番のディレイ・プラグインです。
名機と呼ばれるビンテージ機材をエミュレートをしており、充実したアナログサウンドを得ることができます。
また、ディレイのみならずコーラスとしても活用できるため、人気のプラグインです。
価格は公式サイトにて通常価格 35,300円(税込)となっています。
Universal Audio『Galaxy Tape Echo』
Galaxy Tape Echo | UAD Audio Plugins|Universal Audio
Roland の名機である RE-201 Space Echo を再現したプラグインです。
ディレイはテープディレイならではの暖かみのあるサウンドを得ることができます。ディレイのみならずスプリングリバーブのサウンドも得ることができ、サイケデリックなサウンドを実現できます。
価格は公式サイトにて通常価格 $199.000 となっており、日本円で30,447円程度です(1ドル=153円で計算した場合)。
まとめ
以上、今回はディレイについてご紹介しました。
ディレイと一口に言っても、時代や技術の進化に伴い、さまざまな種類とサウンドが存在することがわかりました。
年代ごとのサウンドの違いを感じられるのも、このようなエフェクトの歴史を紐解くことで「なるほど」と納得する瞬間が増えるのではないでしょうか。
この記事を参考に、ぜひ思い描くサウンドメイクにディレイを活用してみてください。
東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。