
スタジオとしての多岐に渡る取り組み
レコーディング部門とポスプロ部門
-サウンド・シティのような大きな商業スタジオに興味がある音楽クリエイターは多いかと思います。まずは、事業全体についてご説明いただけますでしょうか。
中澤:まず会社全体で言うと、レコーディングとポスト・プロダクションを担う株式会社サウンド・シティと、ポスト・プロダクションを担うレスパスビジョン株式会社の2社でホールディングス体制をとっています。
麻布台のスタジオには、地下1階にポスプロの編集室があり、ここではビデオ編集やグレーディングなどをオンライン/オフラインで実施しています。なので、映像編集がメインですね。
地下3階のフロアはオーディオの作業がメインで、レコーディング・スタジオと、MA スタジオがあります。
ポスプロの面で言うと、現在サウンド・シティは CM などの広告系が多く、レスパスビジョンは PVや映画関係など、長尺の仕事が多いという特徴があります。この連携を通じて、お互いの強みを活かすシナジーを生み出そうとしています。
-複数の事業拠点があるとのことですが、レコーディング・スタジオとしての運営は主にどちらなんでしょうか。
中澤: レコーディング業務としてサウンド・シティが直に運営しているのは、サウンド・シティ本館である麻布台、世田谷、南青山の3つの拠点です。その他にもスタジオがありますが、そちらは運営サポートという形で協力しています。


また、AVACO STUDIO(アバコスタジオ)も株式会社サウンド・シティの中に入り、2025年の4月から運営をしています。

-AVACO STUDIO をオープンするにあたって、設備面ではどのように整えたのでしょうか?
中山:特に設備を整えずとも運営可能な状況でしたので、基本的にはそのまま引き継いで運営しています。今後、お客様の要望にお応えし、さらに環境を整えていければと思っています。
中澤:設備を整えた事で言いますと、麻布台にあるBstのコンソールの入れ替え工事をしました。元々 SSL 9000 J が入っていましたが、 SSL 6000 G にしました。

-昨年は他にも新しい拠点を作ったと伺いました。
中澤:レスパスビジョンと共同で、六本木に新しいポスプロの拠点『CORE』を12月にオープンしました。
3つの編集室・2つのMAルーム・2つのグレーディングルームをすべて1フロアに集約し、編集からグレーディング、MA、試写までをフロア移動なく行えます。

近年増えているライブレコーディング
-スタジオを利用する制作以外にも、広げている事業はあるのでしょうか。
中澤:2010年以降から強化しているのが、ライブレコーディングです。
元々はコンパクトな形で始めましたが、現在では中山を中心に、ドーム系、野外イベントなど、大規模な現場にも録りに行っています。
また、レコーディング機材のレンタル事業(SES)も始めました。
スタジオの特徴
-サウンド・シティのスタジオにはどのような特徴がありますか?
中澤: サウンド・シティの中でメインとなるのが本館の Aスタジオです。
天高が7メートルあり、その響きが非常に良いのが特徴です。この独特な響きを大事にしているプロデューサーやアレンジャーさんもいます。
一方で、AVACO STUDIO 301スタジオは響きが少しデッドであると言う特徴があります。また、世田谷スタジオは、ワンフロアワンクライアントで使用できることから、アーティストから好まれています。
中山:本館だけでもスタジオ数が多いですし、提携している他のスタジオもあるので、スタジオ利用の相談に直前であったとしても対応できる環境が揃っています。
-近年注目されているイマーシブ・オーディオへの対応はいかがですか?
中澤: 2020年頃に、イマーシブ・オーディオの専用スタジオ『tutumu(ツツム)』を作りました。このスタジオを作った大きなきっかけとなったのは、2021年に Apple Music が Dolby Atmos の配信を始めたことです。
中山: tutumu では、ソニーが開発した 360 Virtual Mixing Enviroment(VME) という技術の測定サービスを提供しています。これは、スタジオで聴いた音場を正確に再現できる技術で、マイクを耳に入れて測定を行うことで、自宅でもスタジオで聞いているかのような感覚を味わえます。日本の商業スタジオで、この VME測定サービスを提供しているのは、今のところサウンド・シティだけです。
-イマーシブの案件は増えていますか?
中澤: 案件数は明らかに去年より増えています。主に映画音楽など映像系で使われていて、エンジニアさんが「tutumu だとやりやすい」という評判を仲間の方に伝えてくれているみたいです。

-録音作業の効率化や、時代の変化への対応はどのようにされていますか?
中山: エンジニアの仕事で言うと最近では、ボーカル・エディットなどの作業は、スタジオを使わず、パソコン1台で行うことも多いです。
ライブレコーディングも同じ考え方なのですが、スタジオの貸し出し利用を埋めるだけではなく、所属エンジニアの数を増やして、スタジオ外で活動できる場所を増やしていくことで、需要に対応していくやり方をとっています。
中澤:最近のリスナーの環境がスマホで聴くことが増え、ミックスのやり方を変えていくことももちろんあります。
ただ、時代が変わっていく一方で、基本的にはマイクで録って、スピーカーやヘッドホンで聴くという、この流れは変わっていないんですよね。音の波形という基本的な要素や、最初は空気を振動させて録音して、最後は鼓膜を振動させるという、この流れは今も昔も同じなんです。ビンテージ・マイクも未だに使われています。
アナログなのかデジタルなのか、過程がちょっと変わったとしても、結局はいい演奏を引き出すということがエンジニアやスタジオの仕事だと考えています。エンジニアはよいバランスで録ること、スタジオは環境を整えること。それが揃うと、ミュージシャンもいい音を出してくれるんです。
いい音を出してくれると我々も仕事がしやすい。相乗効果があるんですよね。

サウンド・シティならではのレコーディング
-経済規模としては縮小傾向にある音楽業界において、スタジオが無くなるニュースも多く耳にします。
中澤:老舗の有名なスタジオが営業を終えてしまうこともあります。最近では大きなスタジオを作ることが困難な代わりに、小さな拠点を持つ人が増えている時代かと思います。
そういう中で、やはり我々のような大きな商業スタジオでしか録れない音があるんです。しっかりとした経営母体があるからこそ維持できている高価な機材も多いですし、大人数のストリングスをまとめて録る場合などに対応できるサイズはなかなか小さいスタジオだと難しいんですよね。
中山: 以前、アニメの劇伴録音で、79人の学生ブラスバンドを録音したことがありました。スタジオにあるものだけじゃマイクの本数やキューボックスの数が足りず大変でしたが、SES部門の機材や AVACO STUDIO の機材をかき集めることでなんとか対応できました。
マイクは、演奏者の人数に合わせて79本立てたんですが、過去に見たことがないほどの本数でした。

中澤:AVACO STUDIO や、麻布台のスタジオもそうですが、広いスペースがあることによって、動画の撮影や配信で使ってもらうこともできます。
以前、麻布台の Bスタジオで、アーティストのライブを生配信する企画がありました。ステレオではなくイマーシブの音を、リアルタイムでお客さんにそれぞれの環境で聴いてもらうというものでした。Bスタジオでのライブ演奏の回線を tutumu まで MADI伝送し、エンジニアがイマーシブ環境でその場でミックスして、お客さんたちに送り届けました。
ミュージシャンがいい音を残す現場を守るために
-レコーディングの面で、今後チャレンジしたいことや取り組みたいことはありますか?
中山:最近問い合わせが増えているのが、ホールでの録音。これはライブ録音ではなく、ホールの響きを活かして劇伴などを録音したいという要望です。サウンド・シティ本館のAスタジオとは違う、クラシック的な響きを求めるお客さんの要望に応えるためです。SES の機材を活用して、ホールの現場にレコーディング・システム一式を持ち込み、ダビングやモニタリングができるシステム構築を進めていきたいと考えています。
そういった形で、いただいた要望や相談に答えたいという気持ちが常にありますね。
-総合ポスト・プロダクションとしては、今後強化したいことはありますか?
中山: ワンストップ・サービスができることを知ってもらいたいです。レスパスビジョンが映像を撮って、サウンド・シティが録音、ミックス、映像編集、そしてMA までできるので、映像制作の全てをグループ内で完結できる体制が整っています。
中澤:音楽スタジオを継続していくためには、別に映像や音制作だけにこだわらなくてもいいと思っているんです。全然違う業種につながる場合もありますから。例えば、今イマーシブの技術はカーオーディオにも広がっている。そこが広がりそうであれば、車の産業に関わることがあってもいいかもしれません。
他には、権利ビジネスにも着目しています。音楽制作において、エンジニアが所有できる権利がこれまではなかったので、そこもカバーしていけたらと考えています。

-音楽制作業界の変化に対応していくにあたって、新しい取り組みは必要ですよね。
中澤:うちが手がけてきた劇伴の仕事は、90年代までは CM が中心でした。それが2000年前後に、制作環境がテープからノンリニアへと移って、コンピューターで音楽を完結できる時代に入っていき、音楽スタジオを使った CMレコーディングがどんどん減っていきました。
そしてちょうど同じ頃には、楽曲の配信リリースが増えてきて、CD が売れない時代になってきてしまって。
レコーディングだけで経営を成り立たせることが難しくなった時代に入って、新しいことをやっていかなきゃいけないという課題へのチャレンジをずっとしてきました。
-レコーディング・スタジオがなくなると、ミュージシャンは困りますよね。
中澤:AVACO STUDIO の運営を始めたのも、クローズすると聞いて、この規模のスタジオを無くしてしまったら、もう一度作ることは今の時代ものすごく難しいだろうと判断したからです。
今後、ミュージシャンがいい環境で音楽制作するための場所が減ってしまうということにならないように、取り組みを考えています。
音楽業界の発展に貢献するために、自分たちもやれることをやっていきたいですね。
まとめ
今回は、サウンド・シティの中澤氏と中山氏に、レコーディング・スタジオのみならず幅広く展開されている事業についてお話を伺いました。
インタビューでは他にも、VTuber を自社でプロデュースしたり、コロナ禍にはバーチャル・ゴーグルを会議に取り入れたりなど、これまでチャレンジしてきたいくつもの試みについてのお話も聞くことができました。最新のテクノロジーに敏感に反応していく姿勢が、スタジオとして成長を続けている理由なのかもしれません。
ハイ・クオリティな制作を目指す方は、ぜひ サウンド・シティの音を体験してみてください!
SoundCity(サウンドシティ)
WEBサイト:https://www.soundcity-w.com
SoundCity 麻布台
〒106-0041 東京都港区麻布台2-2-1 麻布台ビル
南青山STUDIO
〒107-0062 東京都港区南青山2-12-15 南青山二丁目ビル4F
世田谷STUDIO
〒157-0073 東京都世田谷区砧6-9-3 ハーモニーハイツ 1F
LUXURIANT STUDIO
〒106-0045 東京都港区麻布十番1-9-7 麻布KFビル6F
TRYBRIDGE STUDIO
〒162-0041 東京都新宿区早稲田鶴巻町110番地 玉井企画ビル3F
WONDERHOLIC LAB.
〒154-0011 東京都世田谷区上馬4-17-4 アルファ駒沢B1F
AVACO STUDIO
〒169-0051 東京都新宿区西早稲田2-3-18 AVACOビル 3F

シンガーソングライター。2012年デビュー、メジャーレーベルからリリースするなどの活動後、現在はフリーに。作詞作曲、ステージでのパフォーマンスを軸に、サッカーチームの応援ソング書き下ろし、企業オリジナルソングの制作、アーティストへの楽曲提供、ラジオパーソナリティなど多分野で活動を展開中。







