モニターヘッドホンとは?なんで必要なの?
モニターヘッドホンとは、音を忠実に再現することに特化したヘッドホンです。
一般的な音楽観賞用のヘッドホンは、リスナーに音をより楽しんでもらうために、音を脚色して再生します。
このような観賞用ヘッドホンで楽曲を作ったりミックスを行ってしまうと、ヘッドホンで聞いている音と実際の音にギャップが生じてしまいます。
例えば重低音ヘッドホンの場合、低音域をかっこよく聞かせるために低音域の音を強調する仕様になってます。
このようなヘッドホンで音選びやミックスの処理をしてしまった場合、別のオーディオ機器で曲を聴いた際に、低音が乏しくなってしまうでしょう。
これでは、制作の意図通りの音をリスナーに届けることができません。
様々な環境で再生されても、自分が意図した音をリスナーに提供するために、周波数特性が偏っていない再生環境で曲作りをすることが大切です。
周波数特性に偏りがないことを「フラット」と呼び、モニターヘッドホンを使用する理由は、このフラットな再生環境を実現するためにあります。
さらに、モニターヘッドホンは様々な音を正確にモニターできるように広い周波数域をカバーしています。そのため、一般的なヘッドホンよりも音の詳細を確認できます。
モニターヘッドホンの選び方
では、モニターヘッドホンはどのように選べば良いのでしょうか。
この章では、モニターヘッドホンを選ぶ際のポイントを解説します。
オンイヤー or オーバーイヤー
長時間の作業で使用する場合、付け心地が悪いと耳の圧迫感や、頭痛に繋がることがあります。そのため、ヘッドホンの付け心地は重要です。
ヘッドホンにはイヤーパッドが耳の上に乗る「オンイヤー」タイプと、耳をすっぽり覆う「オーバーイヤー」タイプの2種類あります。
オンイヤータイプのメリットは、比較的軽量でむれにくいことです。デメリットは、音漏れがしやすく、耳に直接負荷がかかるため長時間の使用で不快感を感じる可能性が考えられる点です。
一方、オーバーイヤータイプは耳を覆ってくれるので音漏れがしにくく、没入感があるといったメリットがあります。また、耳への負荷は少ないです。デメリットとしては、一般的にオンイヤータイプよりも重量が重い傾向があるため、頭に重みを感じるので、長時間での使用は疲労に繋がる可能性があります。
どちらのタイプも一長一短があり、自分に合った付け心地を知るためには、実際に装着して試してみることをお勧めします。
密閉型 or 開放型
ヘッドホンには「ドライバーユニット」と呼ばれる音を発する部分があり、それを覆う「ハウジング」の違いによって、「開放型」と「密閉型」の2種類に分かれます。
密閉型ヘッドホンは、ハウジングが密閉されているため、音漏れしにくいです。そのため、レコーディングで使用する場合、外部への音漏れが少ない密閉型が適しています。
音の特徴は、高音が弱く、低音が強調される傾向があります。
これは、音の特性的に高音がハウジングの素材に吸収されやすく、密閉された構造により低音が共鳴しやすくなるためです。
開放型ヘッドホンは、ハウジングがメッシュでできているため、音がこもりにくく、高音が伸びやかに聞こえる傾向があります。
そのため、密閉型よりもより自然な音の広がりを感じられるでしょう。
一方で音漏れしやすいというデメリットがあり、ボーカルなどのレコーディングの場合は、録音中に漏れた音をマイクが拾ってしまう可能性があるため、向いていません。
有線 or 無線
一般的に有線ヘッドホンの方がコードレスよりも音質が良いとされています。
全てのワイヤレス製品が有線製品よりも劣るとは限りませんが、同じ価格帯で比較した場合、有線の方がワイヤレスよりも音質が良い傾向にあります。
そのため、有線のものから選ぶのが無難でしょう。
この違いは、音楽のデジタル情報を転送する際に発生します。
Bluetooth などの無線方式では大きなデータを処理しきれず、不要と判断された情報(聴覚上聞き取れない部分など)などを省いて音を圧縮するため、私たちの耳に届くまでに音質が劣化してしまいます。
さらに、無線では通信による影響を受けるため、音の遅延も発生しやすいです。
有線ヘッドホンはケーブルを通して直接情報を転送するため、音を圧縮する必要が無く、通信の影響も受けないので遅延も少ないです。
モニタースピーカーとの違い
モニタースピーカーとモニターヘッドホンは、音楽制作で音を確認するための重要なツールですが、それぞれ音の聞こえ方に明確な違いがあります。
では、どのような違いが生じるのでしょうか?それは、耳に入ってくる情報の違いです。
モニターヘッドホンの場合、左耳には L チャンネル、右耳には R チャンネルの音(※1)が流れ、直接的に耳に届きます。
一方モニタースピーカーの場合、左のスピーカーから L チャンネル、右のスピーカーからは R チャンネルが流れますが、私たちの耳に入るまでに空気を通じ、部屋の空間に反射した音も耳に届きます。さらには L と R チャンネルの それぞれの情報が時間差で耳に届きます。
このような情報の違いによって、音の聞こえ方にも違いが出るのです。
細かい違いは本記事では割愛しますが、以下に音の違いを一部ご紹介致します。
ヘッドホン
- 音が頭の中で鳴っているように感じる
- 音の細部が聞こえやすい
- パンニングが誇張して聞こえる
スピーカー
- 音が目の前で鳴っているように感じる
- 定位や空間を把握しやすい
- 空気振動を通じるため、自然な音を確認できる
両方とも得意とする分野が異なるので、理想的にはモニタースピーカーとモニターヘッドホンの両方を揃えることが望ましいです。
とはいえ、あくまで「理想的には」の話であり、初めの段階ではそこまでシビアに考える必要はないでしょう。
どちらから購入すべきか?とお悩みの方は、予算や環境にもよりますが、モニターヘッドホンをおすすめします。
モニターヘッドホンは導入コストが低く、部屋の環境に依存しないため、初心者の方でも取り入れやすいです。
モニタースピーカーの場合は、部屋の環境に影響されやすく、環境も合わせて考慮する必要があります。部屋の環境の整え方を知りたい方は、以下の記事も合わせてご覧ください。
(※1)デジタル音楽は左右の2つのチャンネル(ステレオデータ)で構成されています。
モニターヘッドホンのメリデメ
モニターヘッドホンを使用するメリットとデメリットをまとめると、以下になります。
<メリット>
- 導入コストが低い
- 音の詳細が聞こえやすい
- 大きな音が出せない家でも使用でき、部屋の環境に依存しない(電子ピアノやエレキギターなど、楽器演奏にも使用可能)
- 持ち運びができる
<デメリット>
- 長時間装着による体への負担
- 定位感を把握しづらい
おすすめのモニターヘッドホン
今回は、ONLIVE Studio スタッフおすすめのモニターヘッドホンを3つご紹介します。どれもモニターヘッドホンとして定評のあるモデルです。
筆者が実際に着用してみた感想や、ONLIVE Studio スタッフの意見も反映させているので、是非ご参考にしてください。
audio-technica (オーディオテクニカ)ATH-M50X
世界的に利用者が多く、定番品の一つであるモニターヘッドホンです。
密閉型オーバーイヤータイプで音漏れしづらく、レコーディング時にも活躍します。
耳の部分が 90 度回転する構造になっており、首掛けの状態でも音を確認しやすいので、DJ の方も使っている方が多いです。
つけ心地は、しっかりしていて安定感がある印象です。
ただ、少し重みを感じるため、長時間使用すると頭が少し疲れます。
ですが、定番になっているだけあり、価格帯と音のバランスが良いです。
作曲やミックスだけでなく、楽器演奏やレコーディング、DJ などといった、様々な場面でも使用したい!という方におすすめできる商品だと思います。
価格はサウンドハウスにて19,000円(税込)でした(2024年6月現在)。
参考:audio technica ( オーディオテクニカ ) / ATH-M50x ブラック|サウンドハウス
beyerdynamic ( ベイヤーダイナミック ) DT990PRO
こちらも世界的にも広く使用されているモニターヘッドホンです。
開放型で音の抜けが良く、ヘッドホンなのにモニターから聞こえてくるような臨場感を感じます。
周波数特性は 〜35,000 Hz と広く音の解像度が高いので、ノイズなどといったこれまで聞こえていなかった音が聞こえるようになった感覚があります。
また、イヤーパッドはベロア素材でできていて、個人的にはつけ心地が良くてお気に入りです。
長時間作業する方で、作曲やアレンジ、ミックスを中心に行う方におすすめです。
価格はサウンドハウスにて 21,800円(税込)となっています(2024年6月現在)。
参考:beyerdynamic ( ベイヤーダイナミック ) / DT990PRO 開放型
Sony(ソニー)MDR-CD900ST
こちらはどのスタジオにも必ずといっていいほど置いてある、日本のド定番モデルです。
どのスタジオにも置いてあって使用者が多いので、このモニターヘッドホンで確認すれば仲間内や依頼先との共通認識がしやすいというメリットがあります。
日本のスタンダードモデルを持っておくことは、損にはならないでしょう。
個人的な付け心地の感想は、長時間使用をするとイヤーパッドで耳が痛くなります。
価格はサウンドハウスにて 15,800円(税込)となっています(2024年6月現在)。
参考:SONY ( ソニー ) / MDR-CD900ST 密閉型スタジオモニター|サウンドハウス
まとめ
以上、今回はモニターヘッドホンの選び方から、おすすめ機種までご紹介しました。
モニターヘッドホンはフラットな再生環境を実現しているので、音の確認に適しています。
また、広範囲の周波数帯域を再生することができるので、これまで聞こえていなかった音の詳細が聞こえるようになるでしょう。
聞こえる音が増えるということは、より細部まで意識が行き届き、楽曲のクオリティの向上に繋がります。
先ほどご紹介したモデルも、全て2万円程度と導入ハードルが低いですが、これまでパソコンの内臓スピーカーなどで制作していた人にとっては、視野が広がるでしょう。
リスナーに自分が意図した通りの音を届けるためにも、モニターヘッドホンを適切に選び、フラットな再生環境を実現しましょう。
東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。