サチュレーター (Saturator)とは?
はじめに、サチュレーターの元となる「Saturation(サチュレーション)」という言葉について解説します。
サチュレーションとは、アナログ機器に大きな音声信号が送られた際に生じる音の歪(ひず)みのことをいいます。
歪みとは、音声信号が何らかの原因で本来の形から変化し、意図しない成分が加わったり、音質が変わってしまう現象のことです。例えば、音割れなどはイメージしやすいのではないでしょうか。
アナログ機器による歪み、つまりサチュレーションは、音に厚みや暖かみを付け加えることができるため、音楽制作の現場で重宝されている手法となっています。
しかし、デジタル環境で大きな音声信号が送られた場合、アナログの歪み方とやや性質が異なり、サチュレーションのような効果は得られません。
そこで、デジタル環境でもこのアナログ機器のサチュレーションを再現するために、「サチュレーター」と呼ばれるエフェクトプラグインが使われるのです。
では、そのアナログ機器ならではの音の歪みとはなんでしょうか?次章でもう少し踏み込んで解説したいと思います。
アナログ機器ならではの歪みとは
前提として、音声信号が機器の入力上限を超えると入力された信号は潰され、音が歪みノイズが生じます。これはアナログ機器もデジタル機器も同じです。
デジタルにおいての入力レベルの上限は0dbFS です。この値を越えると「ハード・クリッピング」が起きます。ハードクリッピングとは、音に極端な歪みが生じてしまうという現象のことです。
以下はデジタル入力の際に、上限レベルを超えた部分の波形の例です。先端がバッサリとつぶれてしまっていることがわかります。
一方で、アナログ機器の場合は、ハード・クリッピングの手前の段階で「ソフト・クリッピング」と呼ばれる、緩やかな歪みが生じます。
このソフト・クリッピングは、以下の図のように丸みおびた、ながらかな波形になっています。このような状態は「非線形」といって、適度な倍音が付加される歪みなのです。この倍音が、アナログならではの暖かさであったり、音の豊さを作っています。
ちなみに、サチュレーションは英語で「飽和」を意味し、このサチュレーションがある状態を「音の飽和」と呼びます。
クリーンなサウンドを得られる入力レベルを超えて、音が飽和している...というようなイメージでしょうか。
サチュレーションは何で得られる?
サチュレーションはアナログ機器を使用することで得られる効果であり、さらに各機器によって付与されるサウンドのキャラクターが異なります。アナログ機器の代表的な例として、テープ、真空管、コンソールなどがあります。
現在では、様々なサチュレータープラグインが存在し、それぞれ異なる機器の質感を忠実に再現しています。
また、アナログのコンプレッサーやリミッターでも、副次的にサチュレーションの効果を与えることが可能です。
そのため、アナログモデリングされたコンプレッサーやチャンネルストリップのプラグインでも、サチュレーション効果を得ることが可能です。
求めるサウンドに合わせて、好みのアナログサウンドを選んで活用すると良いでしょう。
サチュレーターの効果
アナログ感を与える
サチュレーターを使用することで、デジタルなサウンドにもアナログ機器特有の暖かみや質感を加えることができます。
音の存在感が増す
サチュレーターを使用することによって、付加される倍音により、音の迫力や立体感が増し、インパクトのある音に仕上げる効果があります。
音にまとまりを持たせる
サチュレーターは、音にまとまり感を出すことにも効果的です。
バストラックや、マスタートラックに使用するなど、まとまり感を出すため音同士のグルーとしても使用可能です。
オーバードライブとの違いとは
ここまでで、サチュレーターは歪みを付加するエフェクターということが分かりました。
歪み系のエフェクターは、歪みつつも扱いやすいオーバードライブやよりエッジの効いたディストーション、さらにアグレッシブなサウンドのファズなど、様々ありますが、違いは何でしょうか。
一番大きな違いは、使用目的と、歪みの程度の違いです。
サチュレーターは元となる音のキャラクターを大きく変えずに、音に厚みや質感を持たせることによって、先の章でお伝えしたような効果を得ることを目的に使用されます。
一方、オーバードライブやディストーションなどは、サチュレーターよりも顕著に歪ませることで、音のキャラクターを変更することを目的に使用されます。
サチュレータープラグイン
この章では、サチュレータープラグインの定番品をご紹介します。
Saturation Knob(Softube)
スウェーデンのメーカー、Softube(ソフトチューブ) 社が無料で提供するこのプラグインは、初めてのサチュレータープラグインとしておすすめです。
シンプルな操作性で、手軽に自分の音に真空管系のサチュレーションを加えることが可能です。
以下の動画では、ギターとベースに Saturation Knob をかけた時の音を確認することができます。
Tape(Softube)
先ほどと同じSoftube 社のサチュレータープラグイン。こちらは3種類のテープをモデリングしたもので、テープならではの質感をリアルに再現されていると定評があります。
サチュレーションプラグインとして人気が高く、定番品として愛されています。
こちらも参考になるYoutube動画を貼っておきます。
Saturn 2 (FabFilter)
Saturn 2 はプロ御用達の老舗メーカー FabFilter(ファブフィルター) 社が提供する、サチュレーションとディストーションのプラグインです。
テープや真空管によるサチュレーション、さらにはアンプのディストーションも再現してくれます。
特定の帯域のみにサチュレーションをかけることも可能で、柔軟性が高く人気ですが、その分上記の2つよりも少々操作が複雑です。
しかし、利用者も多いため解説動画や記事も充実しているのでご安心ください。以下のような動画を参考に使用してみるのも良いでしょう。
まとめ
以上、今回はサチュレーターについてご紹介しました。
とりあえずサチュレーターを試してみたい!という方は、まずは無料プラグインである Saturation Knob を使用してみるのはいかがでしょうか?
サードパーティー製のプラグインに加え、DAWに標準搭載されているサチュレーターもあります。
例えば、Ableton Live には「Saturator」というサチュレーターが搭載されており、808 ベースなど既存の音源との相性も抜群です。
Logic Pro では「Phat FX」の「Distortion」がサチュレーションに近い効果を持つと言われていますし、Cubase にはアナログテープマシンのサチュレーションを再現した「Magneto II」が含まれています。
お使いの DAW に搭載されているサチュレーターも試してみると良いでしょう。
また、サウンドを豊かにしてくれるエフェクターは、サチュレーターだけではありません。ONLIVE Studio blog では、過去にも様々なエフェクターの記事をご紹介しています。
ぜひ合わせてご覧ください。
東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。