宅録のための防音対策〜部屋選びから DIY までご紹介
近年、趣味の DTMer から YouTube 等で活動するクリエイター、はたまたプロのプロデューサーまで、宅録は一般的になりました。 そこで気になるのが、ご近所への音漏れ。周囲への配慮がないまま音を出し続けることはクレームに繋がる可能性があります。 防音を施すことは、ご近所への音漏れを防ぐだけでなく、マイクが環境音を拾いにくくなるため、宅録の音質向上にも繋がります。 この記事では防音対策について知っておきたい知識や、自力でできる防音アイディアをご紹介。 「宅録時の防音対策について知りたい」「レコーディング環境を整えたい」という方は、是非こちらの記事をご覧ください。
知っておきたい予備知識
はじめに、防音をする上での予備知識をご紹介します。
巷には様々な防音グッズがありますが、それらを使用すれば安心という訳ではありません。使い方によっては、ほとんど防音効果を得られないものもあります。
防音についての正しい知識を知り、適切な防音を施しましょう。
防音とは?
防音とは、部屋からの音を外に漏らさない、もしくは外からの音を部屋に持ち込まないようにするための手段です。
防音には、大きく分けて以下の3つ方法があります。
- 遮音・・・音を跳ね返して、外部に漏れる音の量を減らす
- 吸音・・・音を吸収し、反射音を抑える
- 防振・・・振動を抑えて音の伝播を抑える
音を外部に漏らさないためには遮音する必要があります。遮音とは、音を跳ね返すことによって外部に漏れる音を減らすことです。
しかし、跳ね返った音は部屋の中に響き、反響音が多くなってしまいます。そこで吸音材を使用することで反射音を抑え、適切な響きに調整することが可能です。一方で吸音材単体では十分な防音効果は望めません。つまり、防音は遮音と吸音をセットで行う必要があります。
様々な防音グッズがありますが、活用する際にはその商品が遮音の役割をするものなのか、吸音の役割をするものなのかを把握することが大切です。
防音性能が高いとは?
以下は、防音で効果が高くなる3つのポイントです。
- 気密性が高い
- 素材が重い・厚い
- 空気層を設ける
窓やドアなどの隙間は音を通しやすいです。音は空気中に伝わる振動なので、隙間があることによって音がそこからも漏れてしまいます。そのため、防音において隙間を埋めることは大切です。このように外部との空気の入り口が少なくすることを「気密性を高める」などと言います。
また、防音に使用する素材は、「面密度」という数値で比較することができます。
面密度とは、「比重 ( kg )」と「厚さ ( mm )」を掛けた数値で、材料1㎡ における重量を意味し、簡単に言ってしまえば重さのことです。
比重 ( kg )× 厚さ ( mm )= 面密度 [ kg / m2 ]
面密度の数値が高ければ高いほど、音を通しにくい素材といえます。つまり、重い素材ほど、音を通しにくいのです。
また、防音素材を配置する際、壁と防音素材の間に一定の空気層を設けることによって、単純に素材の厚みを2倍にするよりも、より高い防音性能が期待できます。
この空気層は、しっかりと設けることがポイントです。なぜなら、0 〜 20 cm 程度の空気層は、共振が生じてしまうからです。これは、太鼓の原理に似ており、片面から発せられた音源が反対側の面との間でバネのように空気を振動させることで、音が増幅されてしまうという仕組みになっています。
効果的な空気層の作り方については、この記事の後半で具体的に解説していきます。
自作防音には限界がある
様々な防音対策がありますが、自分で行える範囲となると防音の限界があります。
壁が薄く、隣の部屋の音が筒抜けになるような防音性能が低い部屋に対して、いくら防音を施しても、周囲を気にせず思いっきり音を出せるレベルまで防音をすることはなかなか難しいでしょう。今回ご紹介する防音対策も、あくまで補佐的なものと考えて下さい。
宅録に適した部屋選び
防音において最も重要なのは「部屋選び」です。
賃貸物件の場合は、防音性能のある部屋や、防音ブースのある部屋を借りるのが一番手っ取り早い方法でしょう。しかし、そのような物件は家賃相場が高い上に、人気も高いです。そのため、この章ではなるべく音を通しにくい部屋の選び方をご紹介します。
楽器 NG 物件は選ばない
そもそも楽器持ち込みすら禁止している物件も数多くあります。お伝えしたように、どんなに防音を施しても、音を完全に無くすことは難しいです。
もし楽器を持ち込んだことがバレてしまったら、最悪の場合退去させられてしまう可能性もあります。そのような物件にお住まいの方は、宅録は諦めなければなりません。
解決策として、スタジオでのレコーディングをおすすめします。
レコーディングスタジオはレコーディングを想定して作られているので、料金はかかりますが、質の高いレコーディングが期待できます。
料金を抑えたい方はリハーサルスタジオに機材を持ち込んで自分でレコーディングするのも良いでしょう。
防音に優れた建物構造を選ぶ
防音性が優れている建物構造は鉄筋コンクリート( RC 造)です。
鉄筋でできた骨組みにコンクリートを流して作られます。コンクリートは重量が重い、機密性が高い、壁の厚みがあるなどの理由から音を通しにくい素材です。
しかし、建物構造は鉄筋コンクリートでできていても、隣部屋との仕切り壁は石膏ボードなどのような物件もあるので、要注意です。
音が伝わりにくい場所・間取りを選ぶ
設置面が多いほど、音は伝わりやすいです。
そのため、なるべく隣の部屋との接地面が少ない部屋を選ぶことで音の伝播を抑えることができます。特に角部屋の場合は隣の部屋との接地面が少ないので、音が伝わりにくいです。
また、廊下を挟んだ向いに部屋がある物件は、隣の部屋との間に空気層があるため、より音を通しにくいです。
自作でできる防音対策〜初級編〜
この章では、手軽にできる防音対策をご紹介します。
窓やドアへ防音テープを貼る
音漏れの大きな原因の一つが窓やドアの隙間です。
防音テープで隙間を埋めることで、気密性が高まり、音漏れの対策になります。
注意点は、商品によって厚さや素材が違うことです。厚さが薄いものだと、隙間が埋まり切らず効果が期待できません。また、ウレタンの素材は耐久性が低いので避けた方が良いでしょう。
防音カーテンに変える
防音カーテンとは、外に音を通しにくい素材や製法で作られたカーテンのことです。高い周波数帯域の音を減衰するのに役立ちます。
防音カーテンには遮音するものと、吸音するものがあります。また、吸音・遮音の両方を兼ね揃えた商品もあるので、部屋から外に漏れる音を防ぐには、そのようなカーテンを選びましょう。
番外編1:毛布での防音について
自作の防音でよく話題に上がるのが、毛布での防音です。
毛布の素材には遮音性はなく、吸音の役割になります。
そのため、宅録時の音の響きの調整として使用するのが良いでしょう。
例えば、毛布を背面に設置することで、リフレクションフィルターの代わりに活用できます。
番外編2:ダンボールでの防音について
ダンボールでの防音に関しても、「毛布での防音」と考え方は同じです。
遮音性は期待できませんが、吸音材の代わりになります。
ダンボールで吸音したい場合は、ダンボールを蛇腹状にして凹凸を作るか、ダンボールをカットした時の断面を利用する方法があります。
ダンボールの内部構造は吸音効果が期待できる作りになっているため、断面が見えるように重ねていけば吸音材の代わりになります。
ダンボールを使用するメリットとしては、コストがかからず、身近なものでできるという点でしょう。
しかし、この方法は手間がかかることに加え、ダンボールは湿気に弱く、虫が湧きやすいといったデメリットがあるため、あまりお勧めできません。そのため、短期的な対策に向いている方法です。
自作でできる防音対策〜上級者編〜
この章は、より大きな防音効果を求めている方へ向けた DIY をご紹介します。
部屋の中にもう一層壁を作る(空気層を作る)
おそらく DIY で行える範囲、且つ音にも良い方法で最も防音効果が高いと思われるのがこの方法です。
2×4材や石膏ボードなどを使用し、部屋の中にもう一層壁を作ります。
賃貸においても、2×4材専用のアジャスターを活用することで、部屋の中に壁を作ることが可能です。
<イメージ>
ポイントは、壁から少し離して空気層を設けて壁を作ることです。
多くの防音室の設計も以下のように外側の壁との設置面をなるべく減らすように設計されています。
引用:ピアノ 防振設計・防振工事 Piano Rehearsal Room|株式会社音響設計ADO
これは、個体に伝わる振動を抑える目的があります。
施工の際は、記事の冒頭部分でお伝えしたような「太鼓現象」に注意です。太鼓現象を防ぐには、壁との距離を十分(30cm 程度以上)に空けるか、隙間をグラスウールなどの吸音材で埋めてしまうと良いでしょう。
しかし、これは大掛かりな DIY になることに加え、基礎知識が必要です。
以下はこのような DIY に挑戦したい方へおすすめの、防音についての知識提供をしているチャンネルです。
以下の動画が分かりやすかったので、チャレンジされたい方は、ぜひご参考にしてください。
番外編:クローゼットについて
クローゼットや押入れを防音室にしたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
しかし、クローゼットに防音を施しても、完全な防音室にすることは難しいです。多少音が小さくなる程度と考えた方が良いでしょう。
例えば、元近隣との距離が離れた一戸建てなど、元々音がそれなりに出せる環境であれば防音の補佐として最適です。クローゼットや押入れに遮音材や吸音材を施すことで減音が期待できます。
ただし、クローゼットのような狭い空間での収音は、音がこもりがちなので注意です。
レコーディングの練習や、仮歌入れなどに活用するなど、シーンによって使い分けると良いでしょう。
市販の防音グッズを活用する
費用はかかってしまいますが防音グッズは設置が簡単なものも多く、労力の削減に繋がります。
一方で、防音グッズのなかには、「実際に使用してみたら思っていた効果と違った」ということもあるかと思います。購入前には必ず使用者のレビューを見て、費用、得られるメリット、デメリットを天秤にかけて選択をしましょう。
窓を埋めるグッズ
隙間が生じやすい窓に防音を施すことは、手軽に防音効果を高めることができる方法です。
以下に手軽に窓に取り付けられる、防音対策の商品をご紹介いたします。
防音専門ピアリビングが発売している「窓用ワンダッチ防音ボード」は、簡単に窓に設置できる防音アイテムです。
ご自宅の窓の大きさに合わせて、オーダーメイドで発注することができます。
防音室
防音室を購入することも、一つの手です。費用が高くなりますが、音を減衰させることを期待できます。
防音室をうたう商品は様々ですが、なかには遮音性がないものもあり、そのようなものは商品単体では防音の効果はありません。そのため、別途で防音の DIY をする必要があります。
遮音性を表す単位として、Dr 値というものがあります。これは、遮音性能を表す値です。もとの音量から、どれくらい音を減衰させることができたかを表します。
例えば、80db の音量から、防音素材を通り抜けた後の音が 60db になっていたら、Dr 値 はDr -20です。このような値を基準に選ぶのも良いでしょう。
例えば、YAMAHA が出している防音室「セフィーネNS 」は Dr-35と Dr-40の2種類から選択することができます。
ヤマハ防音室 セフィーネNS | 商品説明・価格表 | ユニットタイプ防音室
ボーカルサイレンサー
ボーカルサイレンサーとは、歌に特化した防音グッズです。
例えば、株式会社アリアが発売する『 Voicease 』は、「片手で持てる防音室」をキャッチコピーに発売されています。口と鼻を覆うようにして使用することで、最大−28db の遮音効果があり、歌の練習に役立つアイテムです。
このようなアイテムを活用するのも一つの手です。
まとめ
以上、今回は宅録時における防音対策についてご紹介いたしました。
適切な防音対策をして、快適な制作環境にしましょう。
近隣の部屋からの音が聞こえないことは、ストレス軽減にもなります。
また、冒頭にもお伝えした通り、防音には物件選びが一番の肝になります。
なかには楽器 OK の物件でも、宅録に適さない場合があります。それは、楽器演奏は可能でも、防音性能が高くない物件もあるからです。
このような場合は、他の部屋から聞こえてくる楽器の音も収音してしまう可能性があります。
防音には様々な面を考慮する必要がありますが、理想の宅録環境を手に入れられると、制作の意欲も湧きますよね。
防音の知識をもとに制作環境を整え、自分の用途にあった制作部屋にしましょう。
東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。